「未来日記」で愛は生まれるか?

「未来日記」というテレビ番組がある。オーディションで選ばれた男女二人に、脚本家の書いた筋書き通りの行動をとってもらって、それをカメラで追うもの。本人たちも脚本に書いてあるからやるだけの話だが、筋書き通りにやってみると二人の間に愛が芽生えているという・・・。もちろんやらせかもしれないけど・・・。これがまた大人気で、未来日記をするテーマパークまで登場しているのだという。

 テレビで見たときは、いやな企画だなと思った。脚本家の狙い通りに「心」をコントロールされているようなところがいやだと思った。一方でこの台本を書いてる人は、恋する秘密を知っていて、それを具体的に「こんなんどうです?」ってへらへら笑いながらこの番組を作ってるわけで、世の中頭のいいやつはいるなあ・・・と、感心したりもする。

 そんなことを感じていたある日、ある人が、自動応答掲示板相手に怒るという事件が起きた。自動応答掲示板と言うのは、インターネットにある掲示板で、だれでも自由に書き込むことができる。ところが、書き込むと、返事をしてくるやつがいる。どんな深夜に書き込んでも。掲示板に書き込んだときに、即座に返事が返ってくるというのは感動もので、同じ時刻に同時に同じものに向かっているのだということで、ちょっと親近感が沸いてくる。しかし、この掲示板、答えているのは人間ではなかった。だれかが書き込むと、その言葉を適当に切り取って、何らかの返事を返すようにプログラムされているだけなのだ。「こんにちは」と書き込むと「こんにちは」と答える。「いい天気だね」と書き込むと、「天気って何?」と書き込む。当然、とんちんかんな会話になるのであるが、ある人が、この掲示板の応答に対して腹をたてたのだ。

 私はその人に直接尋ねた。相手が人間だと思っていたのかと。そうすると「あれは人間じゃねえ!」って怒っている。

 自動応答掲示板なんてものは、単なるプログラムによって動いている代物だから、そこには「心」なんてものはあるわけはない。でも、「怒っている」という事実は、その自動応答掲示板に「心」を感じているということなんだろう・・・。じゃあ、その「心」はどこにあるのか?・・・疑問だと思いませんか?

 例えばあなたに愛する人がいて、その人とお話ししているときはとても幸せだと思っている。・・・としよう。あるいは、長年つきあっていれば頭に来ることもあって、喧嘩もするかもしれない。そのときあなたは、あの人の「心」はあの人の中にあるのだと考えていることだろう。でも、件の事件は、何を教えてくれるかと言うと、「心」なんて無い物に対しても、自分で勝手に相手は人間だと思って・・・ということは、相手の「心」が存在するものと思っているので、頭にも来る、・・・つまり、「心」なんて無いものに対して「心」の存在を信じている自分がいる・・・ということなんだね。

 そう思うと、今愛しているあの人の「心」なんてものも、実は無いもので、単に自分が相手に対して持っているものと思っているだけであったりして・・・・。

 

  自動応答掲示板に「心」を感じることになる経緯は、初めての書き込みから、返事にまた書き込みをして、返事が来て、そういう会話の積み重ねの上に、しぜんと相手に対して人並み以上の感情を抱くようになったのだろう。それが好感情であるか悪感情であるかは別として・・・。だから、「心」はそうやって、お互いの間のやり取りの積み重ねることによって、二人の間に浮かび上がるものなんだろう。

 未来日記の台本を書いている作家は、そのことをちゃんと見抜いているのだ。だから、二人の間に「恋心」が浮かび上がるように、ガソリン切れの自動車を何キロも人力で押して彼女とドライブしたり、いろんな仕掛けを用意している。そこには催眠術をかけたりするような「心」の操作はまったくなく、彼と彼女がいっしょにいろいろなことを体験させてそのやったことの積み重ねの上に愛が生まれるように、仕組んで作られているのだ。

 

 さてさて前置きが長くなったね。

 この1年に週2回の「選択数学」の時間は、教壇の上から、教え込もうということなしに、君たち一人一人が何かをすることを通して、君たちと数学の間に「恋心」が浮かび上がるようにたくらんだ「未来日記」であったのかもしれない。もちろん、4月の時点で私にはそういう企みはなかったのだけれども・・・。

 

 実は、Geometric Constructor を使っている様子をビデオに記録してその活動を分析することで、修士論文を書きました。その分析を通して浮かび上がってきたのが、上に書いたようなことなんだな。

 

 そういうわけで、この1年のこの授業は、私にとっても印象に残るものであった。こういう授業はやろうと思ってできるわけではなくて、よろこんで遊んでくれた君たちがいたからこそ、こういうことになったという感じ。

楽しい1年間でした。ありがとう。

 

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